115話:シリーズ ドイツリートその1
謹賀新年
音楽エッセイを始めて2年を迎えました。お付き合い頂いている皆様本当にありがとうございます。
これからの流れとしては、今まで通り演奏会のプログラム作品が中心になりますが、また今年はドイツリートを少しでも多くご紹介できたらと考えております。どうぞ宜しくお願い致します。
1840年、シューマンは後に「歌の年」と名付けています。
クララとの結婚が難航する最中、驚くほどの歌曲が溢れ出ました。
最初は2月にシェイクスピアの「十二夜」からの詩に基づく<道化のお開きの歌>、ハイネの詩による<リーダークライス>、4月は<ミルテの花>、5月からはアイヒェンドルフの<リーダークライス>、下旬には<詩人の恋>、7月には<女の愛と生涯>、10月に<四つの二重唱>/<流浪の民>、などなど年内に124曲が作曲されました。
煩わしい事、悲しい事、それらをクララへの愛と希望のエネルギーにかえて創作活動に費やしていたのでしょうか。素晴らしい集中力と才能だと改めて敬服します。
☆譜を見ただけで、音楽が分かるようにならなければいけない。
☆ひく時は、誰が聴いていようと気にしないこと
☆いつも名人に聞かせるような気持ちで弾くように。
その他の座右の銘についてはこちらのエッセイ をご覧ください。「献呈」ピアノ編がお聴きになれます。
アーダルベルト・シャミッソーの詩に基づく歌曲集です。1840年7月7日、ヴィーク(クララの父)が裁判から退却した報せに、シューマンは「万歳!勝利!」と日記に書き、四日後にこの歌曲集に着手しました。詩の内容は普通の女性の一生を描いた連作で、それが新鮮とされて出版後に人気を博しました。
この歌曲集は、実際最後の詩(女性が孫を登場させる)を省いて全8曲で構成。音楽を劇的に対比させながら物語性を際立たせる一方、曲集全体には穏やかで、繊細な和声をおくことによって女性らしいつつましさ、明るさが表現されています。これは「子供の情景」にも言えることではないでしょうか。
それまでの歌曲集においてツィクルスの構築法を探求してきたシューマンは、今回も詩の内容に即して二つのグループとコーダで構成している。
第1曲《あのかたにお会いしたときから》心惹かれる男性にめぐにあった不思議な感情を、ためらいがちの伴奏リズムとつぶやくような歌唱法で表し、第2曲《誰よりも素晴らしいあのかた》で心の躍動を歌い上げ、第4曲《わたしの指輪よ》内的な喜び、第5曲《手伝って、妹たち》最後の結婚行進曲で区切りを迎える。ここまでがフラット系の調。
続いて第6曲《いとしい友よ、あなたはいぶかしそうにご覧になる》から第8曲までがシャープ系で落ち着きのあるグループを作る。この3曲が急展開するのだが、最後に冒頭の音楽が回想されて、穏やかな時空間へ誘う。
シューマンの歌曲「ミルテの花」よりはこちらのエッセイ「献呈」 をご覧ください。「献呈」ピアノ編がお聴きになれます。
彼に会ってからというもの、わたしは盲になってしまったよう。
どこに目を向けても、彼が見えてしまう。
まるで白昼夢のように,彼の姿がわたしの前に漂っていて、
深い暗闇からその姿だけが 明るく浮かび上がってくる。
わたしの周りはすべて 光りも色も無くなり、
妹たちの遊びにも もう加わる事も無い。
むしろ小さい部屋にこもって 人知れず泣いていたい。
彼に会ってからというもの、わたしは盲になってしまったよう
彼は、誰よりも素晴らしい人、何と優しく、何と善良なんだろう!
優しい唇、澄んだ瞳、明るい心とくじけぬ勇気
大空の深い青の中で、明るく輝いている星たちのように、
彼もわたしの心の大空で 明るく輝いて、気高くまた遥かにある
歩んで、あなたの軌道を歩んで ただあなたの輝きを眺めているだけでいい。
慎ましくあなたの輝きを眺めているだけでいい 幸せであろうと、悲しかろうと!
わたしのひそかな祈りを聞かないで、あなたの幸福だけに捧げられた祈りを
わたしのような卑しい女をあなたが知る事は無い、輝く天空の星よ!
誰よりも優れた女性だけが あなたに選ばれる幸福を受けるべき
そしたらわたしはその気高い女性を祝福します 何度でも祝福します
その時わたしは喜び、また涙を流すでしょう 幸せ、その時わたしは幸せなの
この心が張り裂けるというのなら、 張り裂けて、ああ心よ、それくらいの事が何だというの?