80話:狂気と言われた無調の世界

◇70話までのエッセイはこちらをご覧下さい◇   http://plaza.rakuten.co.jp/kumikopiano/diaryall


          シェーンベルク月に憑かれたピエロ
実験工房の仲間をはじめ、武満徹氏が影響を受けたメシアンに続き今日はシェーンベルクの作品からお届けします。

アルノルト・シェーンベルク (Arnold Schönberg, 1874−1951はオーストリアの作曲家。

初期の頃はブラームスワーグナーの影響もあり「後期ロマン主義」の作品を書いていましたが、次第に調性の放棄=無調音楽に入り、12音技法を創始、作風が変わっていきます。

これらの実験から今日ご紹介するこの作品、傑作歌曲集「月に憑かれたピエロ」(ピエロ・リュネール)が生まれたのです。着想などは更にユニークで、ラヴェルストラヴィンスキーに深い興味を与え、結果的に20世紀西洋の芸術音楽の展開の影響を決定づけたのです。

当時ストラヴィンスキーの「春の祭典」ですら観客は「狂っている!」とばかりに大騒ぎ、受け入れてもらうのに時間が要しました。ドビュッシー全音音階(ホールトーンスケール)もそうでしたね。

私自身、メシアンをはじめシェーンベルクのこのシュールレアリズム音楽は学生の頃はまだ受け入れられませんでした。重いというか、精神性を理解するには未熟物だったのでしょう。ところが少しずつ演奏を経験することにより作曲家の「喜怒哀楽」、それに伴う背景に触れる度に決して美しいものだけ、表面的な心地良さだけが音楽表現ではないと改めて学びました。

さて、この「月に憑かれたピエロ」Pierrot lunaire は1912年、室内楽伴奏による連作歌曲です。シェーンベルクは、女優ツェーメから語り手の為の音楽の作曲をすすめられ、ベルギーのシュールレアリズム派の詩人アルベール・ジローの「月に憑かれたピエロ」の、そのうちの21篇の詩に旋律をつけました。3部構成、第1部でピエロは愛と性、宗教を、第2部では暴力、罪、瀆神を、第3部ではピエロが過去にとりつかれてきたベルガモへの里帰りを歌っています。

21曲のタイトル、詩の和訳を知りたい方はこちらのブログをご覧下さい。http://yuririnco.blog58.fc2.com/blog-entry-62.html

       
     エゴンシーレ◇聖セバスティアヌスによる自画像

エゴン・シーレ(Egon Schiele,1890−1918オーストリアの画家。当時盛んであったクリムトウィーン分離派、象徴派、表現主義のいずれにも属さず、独自の芸術を追求した画家でした。

ところで・・・もう一枚「ゲルストル」という画家の作品をご紹介したいと思います。実はこの画家とシェーンベルクは有名なエピソードがあるようです。

当時、シェーンベルクとゲルストルは家族ぐるみで付き合いをしていたのですが、ゲルストルとシェーンベルクの奥さんのマチルデが恋に落ちてしまい、駆け落ちをしました。最終的にはシェーンベルクの元に戻るのですが、その後、ゲルストルは自殺してしまいます(彼の自殺の原因はそれだけではないようで、反クリムトの立場をとり、個展の決まっていたクリムトの絵を撤去せよと要求したために個展は解約となってしまい、孤立し、誰からも相手にされなくなったことも原因のようです)。そんな波乱の人生の中で、ゲルストルはこの笑う自画像を描いたのです。

描いた年号が1908年、亡くなった年と同じです。かなりインパクトのある作品なのでご興味のある方はこちらをクリックしてみて下さいね。http://www.ux1.eiu.edu/~cfpdh/mus5880/mus5880/gerstl_files/page18-1003-full.html

私の選んだ作品はこちら。同じく1908年の作品のようです。ゲルストルは25歳までしか生きられなかったのですね。何とも切ないお話です。

     
     ゲルストルGerstl (1883-1908)◇シェーンベルクの家族
2 コロンヴィーナhttp://www.youtube.com/watch?v=y8G5st9Se24&feature=channel